Sorry, but I love you




アイクと喧嘩してしまった。
きっかけは本当に些細なことで。
俺もいけなかったっていうか、今となってはそこまで怒ることでもなかったように思う。
でもアイクと口論してた時は頭の中がぐちゃぐちゃで、カッとなって。
酷いことを言ってしまった。


『大嫌い』


咄嗟に口から出てしまった言葉。
あの時、アイクは初めて動揺した顔を見せた。
そんなアイクの顔を見て、俺は何も言えなくなって逃げるようにその場を後にしたのだった。
あれから一週間。
俺はアイクと口を利いていない。
というよりも、本当に必要最低限のことしか話さなくなった。
事務的な用件や返事といったこと以外は何も話さない。話せなかった。


「リンク、アイクと喧嘩したの?」

「え?」

「だってさ、前はすごく仲良かったのに、最近は全然話もしてないよね?」

「そうそう。目も合わせてないもん」


リュカ、ネス、トゥーンの三人に言われて、俺は言葉に詰まった。
子供って、どうしてこう、人をよく見ているんだろう。
目を合わせていないなんて自分では全く意識していなかったし、そんなこと考えてもいなかった。


「仲直りしないとだめだよ!」

「そうだよ」

「けど、俺…アイクに大嫌いって言っちゃったし…」


気まずくなって、視線を泳がせながら俺は言った。
俺の方が年上なのに、これじゃあまるでこっちが子供みたいだ。


「でも…リンクだって、本当はアイクのこと好きだよね?」

「好き……?」


ネスの言葉を鸚鵡返しのように呟く。
三人はそんな俺をじっと見ていたが、ピーチ姫の「ケーキが焼けたわよ」という言葉を聞いてすっ飛んで行った。
残された俺は、ただその場に立ち尽くしていた。


『アイクのこと好きだよね?』


ネスの言葉が頭の中でリフレインする。
同時に浮かび上がってくるのは、アイクの姿。


『リンク』


俺を呼ぶ声。ふいに見せる笑顔。抱き締めてくる力強い腕。優しすぎる口付け。


「アイ、ク…」


なんだか急に胸が苦しくなる。
大嫌いだなんて酷いことを言ってアイクを傷つけたのは自分なのに。
初めからわかっていた。
悪いのは俺なのに、なんだかイライラしてアイクに八つ当たりしてしまった。
アイクは何も悪くなかったのに。
本当は全部俺が悪いのに―


「謝ら…ないと……」


そう言うものの、俺の口調は酷く弱弱しかった。






* * * * *






アイクに謝ろう。
そう思っているのに、いざ謝ろうとすると中々できないものだった。
大嫌いだなんて言っておきながら今更なんだ、と思われるかもしれない。
現金なやつだ、とか我儘なやつだ、って思われるかもしれない。
ここ一週間ろくな会話もしていないせいもあって、アイクに声を掛けづらかった。
その結果、アイクに謝ろうと決めた日からもう既に三日も経ってしまっているのだった。


(今までならこんなことなかったのにな…)


そう思っても、いけないのは自分だ。俺が全部壊してしまったんだから。
当然の報いだろう。


(どうすりゃいいんだ…)


はあ、と溜め息をつきながら草原を歩く。
秋風が花を揺らし、俺の頬を撫でた。
見上げた空があまりにも澄み渡っていて、なんだか嫌だった。
俺はこんなにも悩んでいるというのに。
そんな時、丘の向こう側から誰かが歩いてくる。
俺の目に入ったのは、深い海のような色の髪の毛。アイクだった。


「あ……っ…」


アイクがこっちへ近づいてくる度、馬鹿みたいに鼓動が速くなる。
謝らないと―そう思うのに声が出ない。
俺が何も言えずにいると、アイクは俺の方を見もせずにそのまま横を通り抜けた。
その事実が俺をどん底へと突き落とす。終わりの見えない底へと。
確かに、大嫌いと言ったのは俺だ。
でも、全く相手にされないというその事実が酷く悲しくて、虚しくて、俺は思わずアイクの手首を掴んで叫んだ。


「待てよ!」


俺に手首を掴まれたアイクは立ち止まって俺を見る。
アイクの方が背が高いから、必然的に俺は見下ろされる形になるわけだが。
しかしアイクは何も言わなかった。
大嫌いなのは、アイクが俺に対してじゃないのか。
そんな考えさえも頭をよぎる。


「何か用か?」

「あ、その……えと…」


「ごめん」
たったその一言が口から出てこない。
喉まで出掛かってるというのに、変なプライドが邪魔をする。
俺が何も言えないでいると、アイクは俺の手を振り払った。


「お前は俺のことが大嫌いなんだろう?」


突き放すような言葉に目の前が真っ暗になって、何も考えられなくなる。
今までに見たことがないような冷たい瞳。
この時、俺は初めて絶望というものを肌で感じた。
目の奥と喉が熱くなって、ぎゅっと握った拳が震える。
確かに「大嫌い」と言ったのは俺だ。
でも―


「い…だろ……」

「何?」

「嫌いなわけないだろ!!」


「ごめん」じゃなくて、口から出たのはもっと他の言葉だった。
俺が突然大声を上げたせいか、アイクは驚いたようで小さく目を見開いている。


「好きで、好きで、どうしようもなくて…!あれからいつもアンタのこと考えてて…!」


もはや自分でも何を言ってるのかわからなかったが、溢れ出した気持ちが止まらない。
ついでに涙もぼろぼろ零れて頬を伝っていく。
こんな時に泣いてしまうなんて、情けないしカッコ悪いことこの上ないと思う。
でも気持ちの方が先走ってしまって、俺は涙を拭うことも忘れていた。
アイクはそんな俺を見て溜め息をつく。


「大嫌いって言った相手が好きだなんて、矛盾してるぞ」

「うるさい!好きで悪いかよ馬鹿野郎!!」

「ああ。悪い」

「なっ……!」


思いもよらないアイクの言葉に今度は俺が目を見開いた。
別に、アイクも自分のことを好きと言ってくれるだろうと思っていたわけじゃない。
(本当はそう言って欲しかったけど)
けど、結局好きなのは俺だけだったんだなと思って自分が惨めに思えてきた。
繋いだ手も、強い抱擁も、柔らかな口付けも、重ねた肌も、アイクにとっては何でもなかったんだ。
ああ俺って馬鹿じゃないか。一人だけ空回りして。
また涙が溢れてくる。
しかしアイクは俺の意に反して、俺のことを抱き締めるや否や言った。


「『好き』じゃない」

「え………」

「『愛してる』じゃなきゃだめだ」


その言葉に顔が熱くなる。
目の前の人物は今なんて言った?


「あ…アイク……」


顔を上げると、穏やかな笑みを浮かべるアイクがそこにいた。
それだけで、俺の心が満たされていく。
俺の目からまた涙が零れて頬を濡らしていった。さっきのとは違う涙。
アイクは指で俺の涙を拭うと、こめかみにそっと口付けた。
くすぐったかったけど嬉しくて、でも少し恥ずかしくてアイクの肩口に顔を埋める。
しばらく何も言わずにいたが、俺は本来の目的を果たさなければならないことを思い出した。
顔を埋めたまま、俺はぽつりと呟いた。


「ごめん……」

「………」

「大嫌いなんて言ってごめん…」

「…ああ」


アイクは俺の髪を撫でながら言った。
まるで赤ちゃんや小動物みたいだけど、アイクに髪を撫でられて安心する自分がいる。
俺はアイクの広い背中に腕を回して、マントを掴んだ。
マルスのと違ってボロボロなのに、何故かわからないけど俺はこのマントが好きだった。
そして再び顔を上げると、アイクと視線がぶつかる。
冷たい瞳じゃない。風一つない、穏やかな広い海のような色をした瞳。
俺を見たアイクは少しだけ笑った。
なんだかどきりとして思わず俯いてしまう。
微かな笑みだったけど、アイクは端正な顔立ちをしているから男の俺から見てもカッコイイと思う。


「リンク?」

黙りこくる俺をアイクは怪訝そうな顔で見る。
ずるい。こんなに男前だなんて反則だ。
普段は全然笑わないし、無愛想だし、俺がいうのもなんだけど、口数だって少ない。
それでも、俺はそんなアイクから離れられないわけで。


「アイク」

「何だ?」

「愛してる」


何も言わずにアイクはまた笑う。
施された口付けは、やっぱり優しかった。


---------------------------------------------------------------------------------------
久しぶりにアイリン!甘め目指して頑張った…。
ていうかアイクの台詞くっせー!笑
でも「大好き」よりも「愛してる」の方が台詞の流れとしていいのかなあと思ってうううん。
あと個人的にはリンクに「馬鹿野郎!!」と言わせたかったので言わせてみた。
イメージ崩したわ!という方いらっしゃったらすいません…。
何で2人が喧嘩したのかはご想像にお任せします(´∀`)

BACK