気付きたくなかった。
この気持ちが恋だって。
だって、叶うはずがない。


「男同士…だもんな……」


ぽつりと零れる声。
自嘲気味に笑ってみるが、想えば想うほど辛かった。


「どうした?」


剣の稽古が終わり、沈みゆく太陽を見ながら蹲っていた俺に声をかけたのはアイクだった。
ラグネルは置いてきたのか、代わりに手にははちまきを持っていた。
稽古が終わったから外したようで、無造作に折りたたまれたそれは秋風でゆるくなびいている。
はちまきで上げられていた分の髪の毛が下ろされているせいか、アイクはなんだか大人びて見えた。


「べ、別に。何でもないよ」


ふい、と視線を逸らしながら言うとアイクは膝をついて俺を見た。
距離の近さに俺は内心すごくどきどきしていた。


「…泣いてるのか?」


その言葉にぎくりとしながら俺は少し後ずさりをした。
別に俺は泣いてるわけではないし、泣き顔なんて絶対に見られたくない。
というよりも、どうしてアイクは俺が泣いていると思ったのだろうか。
どちらにせよ、弱ってる自分が見られたくなくて俺は声を張り上げた。


「な、泣いてるわけないだろ!」

「嘘だな」

「嘘じゃない!」

「なら…」


いきなり腕を捕まれて引き寄せられたかと思ったら、アイクの手が俺の顎を掴んで顔を上げさせる。
こんなにも近くでアイクの顔を見たことがなかった俺はどうにかなってしまいそうだった。
群青の瞳に自分が写っていて、それだけで息が詰まりそうだ。
離して、と言いたいのに声が出ない。
俺の目から涙が零れた。


「…やっぱり泣いてる」

「ち、が……っ…これは…!」


俺の言葉なんて聞かず、アイクは顎から手を離すと俺を抱き寄せた。
予想外の出来事に俺は内心パニックに陥った。
こんなにも近くにアイクがいる。ふわりと香るアイクの匂い。
心臓がこれまでにないくらいどきどきいってて、アイクにもこの音が聞こえてしまうんじゃないかと思った。


「悩み事があるなら言え。俺でよければ聞く」


耳を掠める、アイクの声。
今までは何とも思わなかったのに、恋情を抱いてからはアイクの全てが俺を麻痺させる。
声も、真っ直ぐな視線も、大きな手も。
この気持ちを打ち明けてしまえば、俺は楽になれるのだろうか?
それとも、アイクに軽蔑されるだろうか?


「…何でもないんだ。大丈夫だよ。心配かけてごめん」


アイクを押しのけて、俺は言った。
そして「先に戻ってるから」とアイクの顔も見ずに言うと、俺は立ち上がって駆け出す。
アイクが俺の名前を呼んでいるのが聞こえた。
でも振り返ってはいけない。
屋敷とは逆方向にある湖の畔まで来ると、俺はがくんと膝をついた。
息を整えようとすると、涙が溢れてくる。


「う…っ、く………」


俺は臆病だ。
あの時アイクに全てを打ち明けてしまえば、俺は自分が縛られているものから解放されただろう。
でもやっぱり怖くて言えなかった。
いっそのこと嫌われてしまえば想いが断ち切れるだろうと思っても、何処かでそれを畏怖している自分がいる。


「好きだ……アイク…」


消えそうな声は届かない。
湖は、真っ赤に染まっていた。



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暗いなあ…暗いなあ……(大事なことなので2回言いました)
アイク←リンク(くっつけばアイリンになる)でリンクの片想い。
本当はくっつけても良かったんですが秋だし切なくしてみたかった…。
なのにただ暗いだけになってしまったあばば!
白彼さんに捧げます(´▽`)

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