6月のアリア
それはとても晴れた日で、アイクとリンクは他愛のない会話をしながら散歩をしていた。
珍しく何も予定が入っていなかったリンクがアイクに出かけようと誘ったのがきっかけである。
出かけようと言っても何処か宛てがあるわけでもなく、ただ一緒にいられればいいやと思ったのが本音だった。
まあ、そんなことは恥ずかしいから絶対に言わないけれど。
自分の気持ちを隠すようにしながら、リンクはアイクと並んで歩いた。
そんな時、偶然目の前を通りかかった教会に出来ている人ごみを見て二人は足を止める。
「何だろう?あの人ごみ」
「見に行ってみるか」
リンクがアイクの言葉に頷いて、二人は人ごみに近づく。
そしてその人ごみ近づくにつれて、これが何なのかを理解した。
教会の入り口にある階段に立っていたのは、真っ白なウエディングドレスに身を包んだ花嫁。
そしてその隣には、同じく白い衣装を身に纏った花婿がいる。
花嫁は真紅の薔薇のブーケを持っており、赤と白のコントラストが鮮やかだ。
二人とも幸せそうに笑い、花嫁は嬉しそうにしながら花婿に寄り添っていた。
「結婚式か」
「そのようだな」
「結婚式と言えば、アイクはジューンブライドって聞いたことある?」
「ジューンブライド?」
「ピーチ姫が教えてくれたんだけど、6月に結婚すると幸せになれるらしいんだ」
ああ、そういえば妹のミストもそんなことを言っていたな…とアイクは頭の片隅でぼんやり考えた。
年頃であるせいなのか、やたらそういうことに詳しかったような気がする。
「二人とも幸せそうだな」
そういって、リンクは笑った。
全くの赤の他人であるのに、リンクはまるで自分の知り合いが式を挙げているかのように嬉しそうで
アイクはそんなリンクをただ見つめた。
そんな時、花嫁がおもむろに後ろを向く。
男である二人は結婚式の事情に疎く、花嫁が一体何をしているのかよくわからないでいた。
何だろうと思って見ていると、次の瞬間にブーケが高々と投げられる。
花嫁が頑張って投げたせいなのか一番後ろで見ていた二人の所までブーケが飛んできて、それはアイクの手の中へ落ちた。
「やったじゃん、アイク!」
「やった…のか?」
アイクがよくわからないでいると、わあっと歓声が上がる。
花嫁が笑いながら、おめでとうございます!と言っているのが聞こえて、とりあえず良いことなのだろうとアイクは思った。
受け取ったブーケは見事にまで真っ赤な薔薇だけがあしらわれている。
シンプルであるのに華やかな雰囲気が漂っているのは、きっと薔薇の持つ美しさがあるからかもしれない。
ブーケトスが終わると、花婿は花嫁を抱き上げる。
そして大勢の人々に見守られながら、二人は誓いの口付けを交わして永遠の愛を誓ったのだった。
* * * * *
「俺、結婚式って初めて見たよ」
「中々見られるものではないからな」
教会をあとにした二人は、また特に行き先も決めることなく小高い丘を歩いていた。
アイクの手には、先程受け取った赤い薔薇のブーケ。
本当は近くにいた花嫁の友人と思われる女性にあげようとしたのだが、残念ながら断られてしまった。
というのも、「ブーケを受け取った人は近いうちに結婚出来るかもしれないんですから!」と笑いながら言われたからだ。
結局、このブーケはアイクのものとなり、今もこうして持っている。
アイクに赤い薔薇のブーケが似合わないわけではない。
しかし見慣れないせいなのか、なんだか変な感じがしてリンクは笑った。
「どうした?」
「いや、アイクが花束持ってると不思議な感じがしてさ」
そう言われて、アイクは手の中の赤い薔薇を見る。
確かに自分には花というものが無縁な気がする。
男であるからというよりも、おそらく自分のイメージと花が結びつかないからかもしれない。
アイクは立ち止まると、じっとブーケを見据えた。
「アイク?」
「この薔薇はお前の方が似合う」
そういって、差し出される真っ赤な薔薇のブーケ。
リンクは戸惑った。
だってそれはアイクが受け取ったものだから、自分が受け取るわけにはいかない。
「でも、それは…」
「俺が持ってたらマルスに何を言われるかわからないだろ」
「あ、ああ…」
アイクの言葉になんとなく納得してしまうような、そうじゃないような…。
確かにアイクが花を持っている姿はあまりイメージが出来なかった。
それは多分、アイクが非常に男性的であるからかもしれない。
それに比べたら幾分かリンクの方が女性的な雰囲気を出しているため、花を持ってもその姿は絵になるものだった。
リンクはおずおずと手を差し出して、花束を受け取る。
その瞬間、薔薇の高貴な香りがリンクの鼻を掠めた。
「やっぱり、お前の方が似合うな」
ふっと微笑まれて、リンクの心がどきりと高鳴る。
アイクはリンクと向かい合わせになると、彼が持つ真紅の薔薇にそっと触れる。
「リンクは赤い薔薇の花言葉を知っているか?」
「え?」
アイクの脳裏を過ぎるのは、花嫁の友人である女性の悪戯っぽい笑み。
隣にいたリンクに聞こえないように、こっそりと耳打ちをしてきてウインクをした人物。
「ねぇ、お兄さんは知ってる?赤い薔薇の花言葉」
「花言葉?」
「そう。その燃えるような紅の薔薇の花言葉はね、情熱、愛情、それから…」
彼女の甘い声が響く。
アイクは花婿がしていたように、ふわりとリンクを抱き上げた。
「わっ…!」
膝の裏に手を入れられ、もう片方の手で背中を押さえるという所謂お姫様抱っこ。
リンクは咄嗟のことで驚いたが、持ち前の反射神経を生かすとアイクの肩に手をついて体勢を整える。
距離が近くなって、リンクは内心であせった。
鼓動が速くなり、アイクにも聞こえてしまうのではないかと思う。
そんなことを知ってか知らずか、アイクはリンクの耳元に顔を近づけて囁いた。
「貴方を愛しています」
「ッ……!!」
耳の付け根にアイクの唇が触れる。
その柔らかな感触に、ブーケに束ねられているたくさんの真紅の薔薇の如くリンクは顔を真っ赤にした。
思わず花束を持つ手を緩めてしまい、薔薇が滑り落ちる。
「お前は?」
「え……?」
「お前はどうなんだ?」
落ちた薔薇に気をとられながらも、自分をじっと見据える濃紺の瞳から逃れられなかった。
リンクは、きゅっとアイクの服を握る。
「お、俺も……貴方を………」
そう言いかけて、言葉が途絶える。
肝心の一言が出てこない。
別に言いたくないわけじゃない。むしろその逆だ。
それなのに、こういう時は決まって自分の内気な部分が顕著に表れてしまう。
ああ、俺ってほんと度胸がないよな…そう思いつつちらりと見上げると、視線がぶつかった。
海の底のような、深い青。
「あ……っ」
なんだか酷く恥ずかしくなって、リンクは自分でも顔が赤くなっているのがわかった。
だめだ。この人からは逃げられない。
観念したかのようにそっと目を伏せると、リンクは震える口で言葉を紡ぐ。
「あ…愛…して……ます……」
ああ、なんだろう。泣きそうなくらい恥ずかしい。
もう心臓が破裂してしまいそうで。
リンクがそう思っていると、名前を呼ばれて唇を塞がれた。
啄ばむような、優しいキス。
それだけで全てが満たされていく感覚。
「アイク……」
呟いて、ゆっくりと離れていくアイクを見つめる。
愛するとは一体どういうことなのか、ずっとわからないでいた。
でも今ならあの花嫁の気持ちが何となくわかるような気がして、リンクはアイクの首に腕を回すと唇にキスを落とした。
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榎本さんに捧げます!
なんかゲロゲロなアイリンですいません…^q^
6月なのでジューンブライドを意識したものの、華麗に撃沈しました。ひいい。
こんなもので良ければもらってやって下さいませ…!
不束者ですが、これからもどうぞよろしくおねがいします(´▽`)
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