リンクは自室へ駆け込むと、勢いよく扉を閉めた。
そしてドアに背を貼り付けたまま、ずるずるとその場に座り込む。
胸がどきどきするのは、走ったからではない。
手の甲を唇に押し当てて、きゅっと目を閉じた。


(さっきのあれは……)


今し方の出来事が頭の中に蘇る。
サムスがアイクを起こしてきてと言うので部屋に行ったら、突然腕を掴まれて口付けられた。
ほんの一瞬。
触れた唇が一気に熱を帯びる。
リンクは思わずアイクの鳩尾を殴ると、彼が何か言おうとするのも聞かずに部屋を飛び出してしまったのだった。


(落ち着け、俺……)


ドアにもたれながら、自分にそう言い聞かせる。
あまりにも不意打ちすぎるキスにリンクは酷く動揺した。
こんなにも動揺していたら、自分の気持ちが気付かれてしまうのではないか。






密かに、アイクに想いを寄せているということが―







第一印象は「背の高いやつだな」というものだった。
年はあまり変わらないのに、自分よりも背が高くて力もある。
そして、初めて同じチームを組んで知った彼の実力。
決して弱くはない。
むしろ堂々とした振る舞いは、何処か圧倒させる雰囲気があった。
それ以来、同じ剣士でもあるせいか、彼に対しては羨望と妬みのような感情を抱いていた。
嫌いではない。けれど、好きでもなかった。
それがこうも変わってしまうなんて、誰が思っただろうか。






きっかけは、本当に些細な出来事だった。
書斎で本をとろうとしていた時に、運悪く落ちてきた本からアイクが自分を庇ってくれたのだ。
本当にそれだけ。
ただ、今まで自分は護る側であったから、誰かに護られたことなんて一度もなかった。
傷つくのは常に自分。
しかし、勇者という立場にある以上それは仕方ないことだったし、ある意味当然のことだとリンクもわかっていた。
それなのに、生まれて初めて他人に護られる。
これがゼルダ姫やピーチ姫であってもアイクはそうしただろうが、護られることに慣れていなかったリンクは
どうしたらいいのかわからなかった。
ただ、抱き寄せられた時に感じた温もりが忘れられなくて。
それ以来、気がつけばアイクのことを見てしまう自分がいた。
遠くから見ているだけで、胸が締め付けられる。


(俺、変だよな。男同士なのに……)


わかっているのに、気持ちは冷めるどころかどんどん膨らんでいく。
自分の気持ちをどうすることも出来ずにいると、またアイクと二人きりになることがあった。
書類の片付けという作業をマスターに頼まれたのだ。
部屋へ行くと既にアイクは一人で書類をまとめており、自分もその作業を手伝う。
その時は平常を装っていたものの、本当は心臓が破裂しそうだった。
自分の隣にアイクがいるだけで、おかしいくらいに鼓動が早くなる。
そして、ただ単に運が悪かったのか、あるいはアイクのことを考えていた罰なのか、紙で指を切ってしまうという
失態を犯してしまうのだった。
真っ白い紙に散った自分の血。
リンクは恥ずかしさと気まずさを押し込めて対処しようと試みるも、思いがけないアイクの行動によってそれが遮られる。
彼はふいにリンクの手をとると、傷口に口付けた。
次に傷口を舐められ、その瞬間にリンクのボルテージは最上級に達した。


「アっ、アイク……っ…!」


驚きと戸惑いが混じり合った、情けない自分の声。
藍色の瞳に見つめられれば、声も出なかった。


「ドクターマリオの所に行って来る」


やっとの思いで口から出たのは、そんな言葉だった。
もちろんそんなのは口実に過ぎない。
リンクは慌しく部屋を飛び出して廊下を突っ走ると、誰もいないリビングへと駆け込んだ。
そして立ち止まって、肩で息をしながら酸素を取り込む。
身体に酸素が満たされて浸透していくと、おのずと気持ちも落ち着いてくるように感じられた。
指を見てみると、左手の人差し指に赤い線が一本。
紙で切ったにしては少し深いけれど、もう血は止まっていた。


(アイク……)


彼が一体どのような意図であんなことをしたのか、わからなかった。
けれど、拒む理由などない。
リンクは青い瞳を伏せると、自分の指にそっと唇を寄せた。
少し前に、アイクがそうしたように。







* * * * *







今までのこともあって、リンクのアイクに対する気持ちは最早行き場を失っていた。
しかし、自分達が男である以上は恋愛なんて無理だと思っている。
自然の摂理に反する恋なんて、一体誰が認めてくれるのだろうか。
アイクだってこんな自分を気持ち悪いと思うかもしれない。
それに、アイクには誰か好きな人がいる可能性だって有り得る。
そもそも、キス自体が寝惚けてやった過失の行為なのだ。


(もしかしたら、誰かにキスする夢を見ていたのかもしれない…)


相手は誰だろう?
ゼルダ姫か、ピーチ姫か、サムスか。
それとも、自分の知らない他の誰かなのだろうか。
そういえば、花屋の女の子がアイクのことを好きなのだとマルスから聞いたことがある。


(そうだよな。アイクは強いし、格好良いし…)


とりわけ愛想がいいわけでもないが、包容力があって、さりげない気配りができるのがアイクだった。
モテないはずがない。


(俺なんかがどうこう言える立場じゃないんだ)


嫌われるくらいなら、この気持ちを押し殺せば良い。
誰にも打ち明けず、心の奥深くに閉まっておけばいいのだ。
そうすれば、仲間としてアイクと一緒にいることが出来るのだから。


(俺が女の子だったら、こんな思いしなくてすんだのかな……)


挙句の果てには、そんな叶わない願いさえも抱いてしまう。
左手で、そっと唇に触れてみる。
唇越しに伝わった温もりが、少しでも残っていたらいいのに。
心の何処かでそう思いつつ、リンクは唇を撫でた左手をおもむろに自分の前にかざした。
あの時の傷は、もう綺麗に治っていた。



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リンク視点でした。
今までのまとめみたいな感じで長い…(^ω^;)
実は両想いなのに擦れ違ってる二人(笑)

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