「ねえ、さくらんぼのヘタを口の中で結べる?」


微笑を浮かべながら、マルスが問い掛けた。
ある晴れた午後の日のこと。
丁度おやつにさくらんぼを食べていたリンク、ロイ、アイクは突然の言葉に固まった。
さくらんぼのヘタを結ぶだと?


「さくらんぼのヘタ?」

「そう」

「あーそれ知ってる!あれだろ、口の中で結べたらキスが上手いってやつ」


リンクはよくわからないようで頭にはてなマークを浮かべるが、事情を知ってるロイがテーブルに身を乗り出す。
そんなロイを見て、マルスはクスクスと笑った。


「そうそう。皆は出来るのかなって思って」

「そんなの、やったことないけどなあ」

「お前はどうなんだ?」


ガラスの器に盛られたみずみずしいさくらんぼを見て、リンクが呟く。
そして、マルスに対してもっともな意見を投げかけるアイク。
ロイも隣でうんうん、と頷いた。
言いだしっぺなんだからやってみせろと、そう言いたげだった。


「僕?いいよ、やってみせてあげる」


マルスは器に入った鮮やかな紅色のさくらんぼを1つとると、それをヘタごと口の中へと放り込む。
もごもごと口を動かすこと数秒、マルスは掌に先程口に入れたヘタを取り出した。


「ほらね」

「おおーちゃんと結べてる!」

「す、すごい……」


白い掌の上に出されたヘタには結び目が一つ。
ロイはまさか本物を目の当たりにすることが出来ると思っていなかったようで、やたら興奮している。
リンクはリンクでまじまじとヘタを見つめ、アイクも驚いているようだった。


「これって難しいんだろ?」

「うーん。まぁキスが上手ければそうでもないんじゃない?」

「わっ、嫌味かよ!」


からかうようにマルスが言うと、ロイはべーっと舌を出した。
そんな二人を見てリンクは苦笑しつつ、さくらんぼを手に取った。
口に入れると爽やかな甘みが広がる。


「アイクはあれ出来るのか?」

「わからん」


さくらんぼを飲み込んでからリンクはアイクに尋ねるが、即答だった。


「じゃあアイクもやってみれば?案外出来るかもしれないし」


マルスに言われて頷くと、アイクはさくらんぼを1つとってマルスがしていたようにヘタごと口の中へと入れた。
三人が見守る中、もごもごと口を動かす。
傍から見たら謎な光景であったが、当人達はいたって真剣である。
しばらくしてアイクがヘタをつまんで取り出すと、見事な結び目が一つ、ヘタの中心に出来ていた。


「おっ、アイクも出来るんじゃん」


ロイが感心したように言うと、マルスもそれに同調する。


「良かったね。これでアイクもキスが上手いってわけだ」

「どうやらそのようだな」


否定はせずに、取り出したヘタを眺めながら口角を上げて笑う。
アイクがそんなこと言うなんて珍しいな、とロイとマルスは思いつつも敢えて何も言わなかった。


「せっかくだし、リンクもやってみたら?」

「えっ?い、いやっ俺はいいよ!」

「なんだよーそんなこと言うなって。さくらんぼはたくさんあるんだし」

「なんだよーって…ロイだってやってないだろ!}

「だって俺出来ないもん」


あっさり言われてリンクは拍子抜けするが、どうせ自分も出来ないだろうからと言って断った。
マルスは残念そうに「なあんだ。つまらないの」と言うと、さくらんぼのヘタを取り除いて、熟れた実を口に入れた。






* * * * *






その日の晩、リンクは部屋で一粒のさくらんぼをじっと見つめていた。
昼間はああ言ってしまったけど、やっぱり自分もやってみたいと思ったのが理由だった。


(き、きっと出来ないと思うけど……)


言い訳がましくもそんなことを思いながら、さくらんぼを口に含む。
きっとへろへろになったヘタが出てくるんだろうな…などと考えつつもぐもぐと口を動かしてから
おもむろに掌の上にヘタを取り出してみる。


「えっ……!!」


リンクは驚きのあまり、そのままフリーズしてしまう。
自分の掌の上にあるのは、確かに団子結びがされているさくらんぼのヘタ。


(で、できちゃった……)


その瞬間、昼間のマルスとロイの言葉がフラッシュバックする。


『ねえ、さくらんぼのヘタを口の中で結べる?』

『あーそれ知ってる!あれだろ、口の中で結べたらキスが上手いってやつ』


キスが上手い、キスが上手い、キスが上手い―
ロイの声がエコーのように頭の中に響いてくる。
「キス」という単語に反応してしまって、思わず顔がさくらんぼのように赤くなった。


(俺、キスなんてそんな…!)


自分以外に誰もいない部屋で慌てふためいていると、突然がちゃりと部屋の扉が開く。


「わあっ!!」

「ッ―!す、すまん」


扉を開けたのはアイクだったのだが、彼も驚いたようで眼を小さく見開いていた。


「あ、ごめん…俺……」

「いや、大丈夫だ」


アイクは扉を閉めて部屋に入ってくると、リンクが腰掛けているベッドへと近づく。


「フォックスがお前のことを探していたぞ」

「あ、そうなのか?わざわざ悪いな。俺の部屋まで来てもらって」

「別に大したことじゃない」


そういって、アイクはふいと視線を逸らす。
その拍子に目に入ったのは、リンクが持っていたさくらんぼのヘタ。


「それは何だ?」

「え?あ、いや、これは……!」


ひょいっと取り上げられてしまい、リンクは見られてはいけないものを見られてしまった心境に陥った。
アイクが何も言わないから、余計に気まずい。
リンクは俯いて沈黙に耐えた。


「これ、お前がやったのか?」

「そ…そう……です、けど……」


なんだかとても恥ずかしくて、顔が熱かった。
リンクは、自分の顔から湯気が出るんじゃないかと思ってしまう。
しかしアイクはそんなリンクなど気にも留めずに、ベッドに座っているリンクを押し倒した。


「ア、アイク!?」


突然の出来事にリンクが驚いていると、アイクは喉の奥で笑う。


「昼間はやらなかったのにな」


そういって、結び目を指で弄びながらアイクはそれをリンクの目の前にかざす。
半ばからかわれた口調で言われたリンクは、酷い羞恥心にかられた。


「だ、だってあの時は…!」

「あの時は…なんだ?」


マルスとロイに何か言われそうで出来なかった、と喉まで込み上げてくるのに何故か言葉に出来なかった。
気まずくなって、リンクは思わず視線を横へと逸らす。
アイクはそんなリンクを許さず、唇が触れるか触れないかまで顔を近づけた。


「さくらんぼのヘタを結べるやつはキスが上手いんだったな」

「…っ、そうみたい…だけど…」


アイクの吐息がかかり、リンクは自分の鼓動が速くなるのを感じた。
少しでも動いたらキスしてしまいそうだ。
彼の深い紺色の瞳と自分の青い瞳がぶつかる。


「お前が本当ににキスが上手いかどうか、試してみるか」

「なっ……!?い、いつもしてるくせに……!」


囁くように言われて、リンクはまた顔を赤くする。
自分の下で顔を火照らせるリンクを見て、本当にすぐ赤くなる男だな、とアイクは心の中で思った。
そんなことは絶対口には出さないけれど。


「ヘタを結べるとは知らなかったからな」

「………っ…!!」


痛いところを突かれて、リンクは何も言えない。
ああ、この人には勝てないな、と常々思う。
剣術は互角だけど、コミュニケーションというか、駆け引きはいつもアイクがリンクの先を行く。
ずっと一人で旅をしていたリンクと、グレイル傭兵団という常に集団で行動していたアイクの間には、
他者とのやりとりにおけるスキルの違いがあるのかもしれない。


「い、一回だけだからな……っ…!」


観念したリンクは、アイクの首に腕を回すとそっと自分の唇を重ねた。
そしてその後の二人がどうなったかは、神様しか知らない。




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どばーっと書いたから流れがおかしいかもしれないけれど…。
アイクさんをたまには意地悪にしてみてもいいかなと思って(笑)
しかしまあ、意地悪になりきれてないような気もしますが^q^

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